ティントレットとはどんな人物?簡単に説明【完全版まとめ】

 

ルネサンス盛期のイタリアで活躍した画家、

ティントレット

生涯のほとんどをヴェネツィアで過ごした彼は、同地の聖堂や宮殿に今なお数々の傑作を遺しています。

ティントレットとは一体、どの様な人物だったのでしょうか。

今回は、彼の遺した足跡をたどりながら、その生涯について見ていきましょう。

 

ティントレットはどんな人?

プロフィール
ティントレット

自画像, ルーヴル美術館 (1588年頃)
出典:Wikipedia

  • 出身地:イタリア ヴェネツィア
  • 生年月日:1518年9月10日
  • 死亡年月日:1594年5月31日(享年75歳)
  • 盛期ルネサンスにおけるヴェネツィア派の画家。

 

ティントレット 年表

年表

西暦(年齢)

1518年(0歳)イタリアのヴェネツィア共和国に誕生。幼少より画家としての頭角を現し、10代になると時の巨匠、ティツィアーノに弟子入りするも徒弟としての期間は短い。

1539年(21歳)独立し自身の工房を構える。

1548年(30歳)《奴隷の奇跡》が評判を呼び、ヴェネツィア派の巨匠の一人に加わる。

1550年(32歳)銀行家の娘、ファウスティーナ・デイ・ヴィスコヴィと結婚。後に4人の子供たちは全員画家になる。

1564年(46歳)スクオーラ・デイ・サン・ロッコでのコンペティション騒動。

1575年(55歳)ヴェネツィアにペストが大流行し、宗教画の需要が高まる。

1577年(57歳)ドゥカーレ宮殿で起きた大火により、自身の作品の多くが焼け落ちる。ヴェロネーゼと共に再び装飾を担当する。

1580年(60歳)作品の引き渡しと展示のため、人生で初めてヴェネツィアを離れる。

1586年(66歳)現存するスクオーラ・デイ・サン・ロッコでの装飾作品群が、約9年の年月をかけ完成する。

1590年(71歳)画家としても非凡な才能があった愛娘マリエッタが死去し、工房の運営を息子ドメニコに譲る。

1594年(75歳)前年からの冬の厳しさに胃を悪くし、急激に衰える。5月31日、自邸で死去。マドンナ・デロルテ聖堂の墓地で、娘の隣に埋葬される。

 

ティントレットの生涯

ここからは早速、ティントレットの主な功績をご紹介していきます。

ヴェネツィア芸術に貢献

1518年、ヴェネツィア共和国に誕生したティントレット。

彼がヴェネツィアを離れるのは、60歳の時に仕事のため家族と訪れるマントヴァへの旅ただ一度きりとされています。

国外からの依頼はほとんど工房の弟子たちによって完成させたものであったことからも、ティントレットはヴェネツィアと強い結びつきがあったことがうかがえます。

さらに言えば、あくまでも生活圏内で芸術の探求に集中したかった人物と考えられます。

本名はヤコポ・ロブスティですが、染物屋(イタリア語で「ティントーレ」)の父のもとに生まれたことから、「ティントレット」と呼ばれることになりました。

少年時代の彼や作品について詳しいことは判明していません。

しかし、少なくとも10代の頃には画家としての才能を現し、当時ヴェネツィア芸術の中心的人物だったティツィアーノに弟子入りしています。

二人の師弟関係はあまり長くは続きませんでしたが、若き日のティントレットは主にこの師から多くを学んでいます。

それと同時にミケランジェロにも多大な関心を寄せていた彼は、自身の作風を形成するうえでこの二人の巨匠から多くを吸収していきました。

ティントレットが学んだ二人の作風の特徴をごく簡単に言ってしまうと、

ティツィアーノ
→ 色彩表現にこだわったドラマチック性(ヴェネツィア派)

ミケランジェロ
→ 人体表現にこだわったドラマチック性(フィレンツェ派)

とまとめられます。

画家としての特徴

21歳で独立し、自身の工房を構えたティントレット。

彼の作風の特徴として、

・独創的な構図

・誇張的でドラマチックな表現

・奔放で速筆

と言ったものが挙げられます。

これらはいずれもマニエリスム様式やバロック様式の作品に見られる特徴であり、ティントレットは前述した2人から得た技術を掛け合わせつつ独自の作風を確立していきました。

中でも最後に記した「奔放で速筆」はティントレット独自のものとも言え、生涯に渡り、そして死後も賛否両論に分かれ議論されることになるのです。

そんなティントレットがヴェネツィア派の巨匠に仲間入りを果たすきっかけとなった作品が、《奴隷の奇跡》(1548年)でした。

出典:Wikipedia

明快な構図と色彩による明暗表現が強調されたこの作品は、見事な質感と迫力により、人々に驚きと戸惑いをもたらせ話題となったのです。

その後様々な依頼が舞い込むようになり、ティントレットは生涯に渡り画家として安定した地位を築きました。

彼は肖像画をはじめ官能的な世俗画なども手掛けていますが、宗教画を多く遺しており、その大半が大型の作品であることも特徴です。

中でも晩年に完成した《天国》(1590年)は、ひとつのキャンヴァスに描かれた作品としては世界最大とされています。

《天国》
出典:Wikipedia

ちなみにこの約4年がかりの大作は、多くの弟子の支えがあって完成しました。

特に晩年はひとりで作品を完成させることはなく、後半の仕上げはほとんど弟子たちの仕事だったことも特徴的で、それにより彼の画家としての評価にもばらつきがあります。

しかし、ティントレットの

・光や色彩による劇的な効果

・歪曲、誇張した表現

など、ヴェネツィア派とフィレンツェ派の特徴を掛け合わせ生まれた独自の作風は、その後のマニエリスム様式の発展へ繋がっていくこととなったのです。

 

ティントレットにまつわるエピソード

ここではティントレットの人物像についてもう少し探るべく、彼にまつわる小話をご紹介します。

コンペティションでの一騒動

ティントレットがヴェネツィアの画家として仕事をしていくうえで、長い付き合いを持つことになったのが、スクオーラ・デイ・サン・ロッコ(サン・ロッコ同信会館)でした。

1564年、本部の建物を新しく建てたばかりだったこの同信会館では、聖人に捧げる内部の天井画を依頼するためコンペティションを行うことに。

当時活躍していたヴェネツィアの一流画家たちに声がかかり、彼らは選考用のスケッチの提出が求められました。

40代半ばだったティントレットにもその機会は与えられたわけですが、彼はなんと選考日の前日、完成させた作品を持って会館に現れたのです。

同信会のメンバーたちは当然驚き、募集要項を守っていないことに批判的なメンバーもいましたが、結局はティントレットの完成品を受け取ることになりました。

実はこの同信会の規約に、「寄付や寄贈品を断ってはならない」というものがあったのです。

それを事前に知っていたティントレットは、これを逆手に取りチャンスをものにしました。

その後は20年以上に渡ってこの同信会館での仕事を請け負うことになり、1577年には毎年決まった枚数の絵を納めることを条件に、多額の年金を受領する契約を結んでいます。

芸術の才能だけに偏ることなく、ビジネス面でもなかなかの世渡り上手ぶりを見せているのです。

幸せな私生活と悲劇

ティントレットは30歳にして名声を獲得し仕事も順調に軌道に乗っていた頃、ヴェネツィアの銀行家の娘と結婚しています。

しっかり者の妻との生活は幸せなもので、彼はますます安定的に画業に打ち込むことができるようになりました。

さらに4人の子供に恵まれ、彼らは後に全員が画家となっています。

そしてティントレットの助手を務め、やがて工房を引き継いでいくことになるのです。

中でも特に娘のマリエッタは非凡な才能を持っており、依頼主の邸宅内で大作を手がける父の助手を、少年に扮して務めることもあったとか。

ティントレットもこのマリエッタにとりわけ愛情を抱いていましたが、彼女は34歳の若さで亡くなってしまいます。

ちょうど、世界最大級の大作《天国》が完成して間もなくのことでした。

大きな喪失感に包まれた彼は息子に工房の運営を任せ、自身はさらに内省的な生活を送るようになります。

そんなティントレットの最後の作品は、サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂のための3点。

いずれも傑作と言われますが、中でも《最後の晩餐》(1594年)は神秘的かつ幻想に包まれています。

《最後の晩餐》
出典:Wikipedia

 

きょうのまとめ

今回は、ルネサンス期の画家ティントレットについてご紹介してきました。

いかがでしたでしょうか。

最後に、ティントレットとはどの様な人物だったのか簡単にまとめると

① 盛期ルネサンス期に活躍したヴェネツィア派の画家。

② 生涯のほとんどをヴェネツィアで過ごし、同地に作品を多く遺している。

③ 制作の仕方、大胆な速筆などは批判の対象にもなっているが、後世の芸術様式に多大な影響を与える功績を遺した。

当時から観る人に戸惑いや驚きを与えつつ、知らず知らずのうちにその世界観に引きずり込んでいくティントレットの絵画。

画面に溢れる劇的な場面は、圧倒的な技術の他に、彼自身の熱しやすく冷めやすい情熱が反映されているかのようです。

 

【参考文献】
・ブリタニカオンラインジャパン 大小項目事典「ティントレット」
・水野千依編『西洋の芸術史 造形篇Ⅱ 盛期ルネサンスから十九世紀末まで』藝術学舎/2013
 

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