※ネタバレあり
大河ドラマ『麒麟がくる』
第三十三話で描かれたのは、織田家の朝倉・浅井との戦において、敵方についた比叡山延暦寺との一幕。
比叡山を取りまとめる天台座主・覚恕が、実はとんでもない悪党だった…?
和睦を結ぶために光秀、信長が取った行動とは?
そしてその展開が呼び寄せたのは…あの”比叡山焼き討ち”の惨劇でした。
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麒麟がくる(第三十三話)のあらすじ
「小朝さんの“覚恕”は、想像以上に覚恕様でしたね。セリフのやりとりはなくて、覚恕様がこちらを見てニヤッとするだけのシーンでしたが、ラスボス感が半端なかった。もう怪しさ満載でした」(ユースケ・サンタマリア)#麒麟がくる pic.twitter.com/6ky1fm6iEE
— 【公式】大河ドラマ「麒麟がくる」毎週日曜放送 (@nhk_kirin) November 22, 2020
1570年、近江・宇佐山城に陣を敷いた織田信長(演:染谷将太)は、比叡山延暦寺の後ろ盾を得た朝倉義景(演:ユースケ・サンタマリア)・浅井長政(演:金井浩人)と対峙。
さらに本願寺一向宗と手を結んだ三好家、長島一向宗と手を結んだ六角家に四方を取り囲まれ、身動きの取れない窮地に立たされていました。
将軍・足利義昭(演:滝藤賢一)は信長を救うため比叡山との和睦を交渉しますが、比叡山は一向に取り合おうとせず。
この状況に光秀(演:長谷川博己)は、以前仕えていた縁を用い、比叡山に陣を敷く朝倉義景に和睦を直訴しに向かいます。
そこで光秀が目にしたものは、比叡山を治める天台座主・覚恕(演:春風亭小朝)の実態でした。
京の領地を牛耳り、数々の商いを操ってその力を誇示する覚恕にとって、上洛を果たし京を治めようとする信長は許されざる敵。
朝倉は比叡山に陣を敷いた以上、その覚恕の怒りを無下にすることはできないというのです。
さらに覚恕は幕府・政所の摂津晴門(演:片岡鶴太郎)とも通じており、将軍の和睦交渉が一向に聞き入れられないのは、この摂津の策略によるものでした。
こうした事情から和睦の目途は一向に立たず、硬直状態の比叡山と信長の様子を好機と見た一向宗は、尾張・小木江城を襲撃。
弟・信興が討たれたことにより信長は焦りを見せ始め、比叡山との戦は敗色の濃いものとなっていきます…。
活路は正親町天皇にあり
最悪の戦況に、
「今は京より尾張を守ることが大事だ」
と撤退を主張する信長。
しかし光秀は今一度、和睦の交渉を進言します。
実のところ覚恕は正親町天皇(演:坂東玉三郎)の弟であり、光秀はここに和睦交渉の活路を見出したのです。
信長は幕府や諸大名が無視し続けてきた御所の修復に名乗りを挙げており、天皇とは特別なつながりがあります。
信長であれば、天皇に和睦の勅許を取り付ける交渉ができ、さすがの覚恕もそればかりは無視できないという考えでした。
こうして1570年12月、正親町天皇の勅許により、織田家と朝倉・浅井・比叡山の和睦が取り図られることに。
ただ…戦いはこれで終わりではありませんでした。
1571年2月、
「京に秩序をもたらすうえでの真の敵は、領地を牛耳り至福を肥やす比叡山だ」
と睨んだ信長は比叡山に急襲を仕掛けます。
武器を持たぬ者、女人、子どもも見境のない虐殺。
世にいう“比叡山焼き討ち”です。
麒麟がくる(第三十三話)の見どころ
ここからは今回の見どころを詳しく辿っていきましょう!
苛立つ義昭の想い
和睦を命じても一向に止まない戦に、苛立ちを見せる将軍・足利義昭。
序盤、彼に寵愛され二条城に出入りしている駒(演:門脇麦)に、その心中を吐露するシーンがありました。
「織田さまと朝倉さまの戦は、いつまで続くのでしょうか」
そう聞いた駒の問いかけにも、ぶっきらぼうに
「わからぬ」
と返した義昭ですが、その苛立ちの最中でも、彼の口をついて出た言葉。
それが
「死なせたくない者がおる」
でした。
このところ信長との関係を巡って感情的になっていた義昭。
しかしその慈愛に満ちた根本は変わらず、彼が和睦を望む一番の理由は、何より戦による犠牲を出したくないからなのですね。
そしてそんな義昭が死なせたくない者のひとりとして挙げたのが、光秀の名でした。
「十兵衛はわしの嫌がることを正直に思うたまま申すのじゃ。そういう者はほかにおらん」
と。
たとえば、敦賀での信長と朝倉の戦にて、義昭が参陣していれば将軍の権威に敵がひるみ、被害を減らせたと言ったことなどでしょうか。
目上の立場になると、意見される機会というのは必然的に減っていくものですよね。
しかし義昭はそれまで僧侶として俗世を離れており、急に将軍に掲げられた、いってしまえば素人同然の身。
道を踏み外したときに叱ってくれる存在が自分には必要だと、重々わかっているのでしょう。
ときに、駒に向かって
「そなたは十兵衛が美濃にいたころから、親しうしていたそうじゃな。好きであったか」
と問う義昭の姿は、なんだかいじらしくて好感がもてました。
天台座主・覚恕の実態
「僕がほぼひとりで4分くらい話している間、ずっと板の間で平伏している光秀さん。カメラのアングルを変えながらトータルで1時間ほど。自分が映らないところでも付き合ってくださった長谷川さんに感謝感謝です」(春風亭小朝)#麒麟がくる pic.twitter.com/YxfHrH6l4l
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かつて主君として仕えていた縁から、朝倉義景との和睦交渉の場を取り付けた光秀。
越前の事情もよく知っている光秀は、冬になると雪の影響で帰れなくなることを挙げ、
「雪に阻まれるとなれば、2万余りの兵を春までこの山中で養わねばなりません。もはやこの戦、潮時ではございませぬか?」
と、義景に和睦を進言します。
しかしそれでも頑なに応じようとしない義景には、どうしても退けない理由がありました。
ここで義景の取り次ぎにより、光秀が会うことになった人物が天台座主・覚恕。
覚恕は古くから寺社や神社、さらには家計の維持に苦しむ公家に金を貸すことで領地を奪い取っており、京で強大な権力を誇る影の支配者でした。
その権力を一度味方に付けた以上、そう簡単に期待を裏切るわけにはいかないというのが、義景の考えだったのです。
正親町天皇への嫉妬から手に入れた権力
覚恕は実のところ天皇家の血を引く者で、現在の帝・正親町天皇の弟です。
しかし幼少から、美しいと周囲に褒められる兄対し、覚恕は醜い子だと罵られてきたと話し、ふたりにはいかんともしがたい確執がある様子。
「おや、この赤子はもう大きな歯が3本も生えておる。さも醜きこと…」
と、誰ぞやに言われたという話には、冗談だと捉えた側室たちが笑っていましたが、これも
「笑うでない」
と一喝。
皇室を継いだ兄に対し、自身が出家させられたのも醜い容姿のせいだとする口ぶりには光秀も
「恐れながら…」
と意見しようとしますが、それをさえぎって続く苦労話…。
兄との扱いの違いに対する恨みは、相当に根が深いことを感じさせられますね。
覚恕が京の領地を牛耳り、権力を欲しいままにしたのは、そうした兄への嫉妬心からでした。
幼いころから醜いと罵られてきた自分でも、金や権力をもっていれば皆がこうべを垂れると話す覚恕。
「帝も先帝の御法要のために、金を融通してくれとお頼みになられた。わしは美しき者に勝ったのじゃ!」
と、その行動のすべては天皇に力を誇示するためのものであることを、光秀の前で露わにするのでした。
正親町天皇いわく、覚恕は大金を持ちながら女や遊びにかまけ、御所の屋根板一枚も直そうとしたことはないとのこと。
そのことも御所の修復を買って出た信長に天皇が味方をする理由となったのですが、
仏教の聖地である比叡山の高僧がその有様というのは…ありがたみもなくなってしまうというか…。
創作の部分はありますが、実際の仏教史にも僧が私欲に溺れてしまうような時代はあったのでしょうね。
幕府と覚恕の結託
「今回のセリフはすべて『・・・』でした。これまでは『・・・』があるとラッキーと思っていましたが、それは間違い。セリフがないぶん、一瞬の表情や動きで演技しなければいけない。そして、1つとして同じ意味の『・・・』はない。と、監督さんに教えてもらいました」(岡村隆史)#麒麟がくる pic.twitter.com/4sucH9gbMx
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今回、足利義昭の和睦交渉がなかなか聞き入れられなかった原因は、比叡山との交渉を政所のまとめ役である摂津晴門が行っていたからでした。
摂津と覚恕は、結託して信長を京から追い払おうと考えていたのです。
「都から織田を一掃し、幕府と叡山が再び手を取れば、古き良きころに戻れると確信しております」
と、摂津が話すところを家康の忍びである菊丸(演:岡村隆史)が、床下でしっかりと盗み聞きしていました。
摂津をはじめとする古くからの役人は覚恕と通じており、幕府と比叡山は互いに至福を肥やせる関係性が築かれていた様子。
政所には前々から領地の横領問題などがありましたよね。
それも恐らくは権力を有する覚恕を通じ、裏でいろいろ工作をしていた部分があるのではないでしょうか。
となれば、上洛を成し、幕府の改革を推し進めようとする信長はなにより邪魔になります。
築き上げてきた体制を変えられてしまっては、自分たちが至福を肥やすこともできなくなってしまいますからね。
…あと、これは余談ですが、久しぶりに菊丸が出てきてうれしかった人はけっこう多いのでは?
幕府の策略に怒る松永久秀
「天敵である筒井順慶と同じ宴(うたげ)に同席させられた。そりゃあ松永は激怒しますよ。めずらしく感情的になって松永の本音が出たシーンでした。監督から『もう少し抑えたほうがいいのでは』と言われるくらい思いっきり光秀に怒りをぶつけました」(吉田鋼太郎)#麒麟がくる pic.twitter.com/mHOaVSYT8y
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信長の上洛以来、織田家に味方をし、幕臣のひとりとなっていた松永久秀(演:吉田剛太郎)。
今回は摂津の策略により、彼が幕府を離れてしまうことになります。
事件は織田家と比叡山が和睦し、京に束の間の平穏が訪れたある日のこと。
二条城で行われたのは、足利義昭の養女と、大和にて覇権を誇る筒井順慶(演:駿河太郎)の結婚祝いの儀でした。
松永もその席に呼ばれていたのですが…
筒井と松永は上洛以来、大和の領地を巡って戦を繰り返してきた宿敵同士。
松永が筒井と戦をしているのも、信長と話し合ったうえでのことです。
となれば松永としては
「あれ?なんで義昭が娘を筒井の嫁にやるの?なんで幕府がお祝いしてるの…?
ていうか俺、筒井と戦してるの知ってるよね?なんで呼ぶんだよ!」
という状況です。
案の定、激怒した松永は幕府を離れ、筒井との決着をつけるべく大和への帰路を急ぎます。
このようにして幕府の策略通り、信長に味方する者が京から排除されていくわけですね。
そういえば前回、光秀は鉄砲を融通してもらう代わりに、義昭や信長と筒井のあいだを取り持つことになっていました。
この流れを見ると、光秀も摂津たちに完全に利用されてしまったことになりますね…。
「比叡山焼き討ち」を巡ってすれ違う光秀と信長
さてさて、諸悪の根源が比叡山にあるとわかれば、相手が仏であろうと信長も容赦しません。
そう、和睦して事なきを得たかに見えた戦況から急襲、信長による“比叡山焼き討ち”が行われるのです。
この場面で注目されたのは
「山中には武具を持たぬ者もあまたおります。その者たちはいかがいたしまするか?」
と、信長に問う光秀の姿。
信長の返答は
「今日まで山を下りよと何度も申し伝えたはず。皆、斬り捨てよ!」
というものでした。
しかし光秀はこの命令に納得がいっておらず、戦場に赴いた際は
「女、子どもは逃がせ。皆にそう伝えよ!」
と独自の判断で指示を飛ばします。
人から褒められたい信長・世を平らかにしたい光秀
朝倉・浅井の後ろ盾となった比叡山の脅威を挫くという目的のため、そこまでの虐殺をする意味はあるのか。
今回、一度京を撤退しようとした際も、
「比叡山の坊主に負けて帰ったと知れば、帰蝶さまもさぞお笑いになるでしょうな!」
と光秀に言われ、思いとどまった信長。
その際に言っていたように、信長にとっては人から褒められること、喜ばれることがすべてです。
そのために彼はただ戦に勝つだけでなく、力を誇示する必要があるのですね。
ただ…光秀の望むものはあくまで平らかな世を目指すことで、己の力を示すことにはなんの意味もありません。
この比叡山焼き討ちの一件でまた、ふたりの食い違いが明らかになってきた気がしますね…。
麒麟がくる(第三十三話)のまとめ
宿敵朝倉・浅井に味方した比叡山延暦寺が、実は京で幅を利かせる大悪党だったという、衝撃の展開が描かれた三十三話。
ただそのあとの信長の行動は…やはり賛否の分かれる部分ではあります。
行動力があるゆえに、しばしばやりすぎてしまう面のある信長。
このあたりがコントロールできず、光秀は不満を募らせていくのでしょうか。
最後に今回のまとめです。
① 天台座主・覚恕は正親町天皇の弟。兄と比べられて育ったコンプレックスから、金と権力で成り上がろうとした。
② 幕府と覚恕は古くから通じ、京の領地を牛耳って至福を肥やしてきた仲。京を治めるうえでは諸悪の根源であることが発覚した。
③ 悪とわかれば容赦のない信長は”比叡山焼き討ち”を展開。女子どもも関係のない虐殺命令に、光秀との確執が…?
さて、次週のタイトルは「焼き討ちの代償」。
焼き討ちの後に残ったものは?
焼き討ちを終えて、光秀は何を思うのか?
これはまた気になりますね。
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