平安初期の朝廷の重職に就いていた小野篁は、異界、冥界と呼ばれる不思議な世界に半分暮らしていたと言われる人物です。
異界といえば、同じ平安時代の陰陽師の安倍晴明もその霊力の凄さで知られていますね。
彼らはもしかしたら、「異界」を共通点に話しが合ったんじゃないでしょうか。
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小野篁が生きた平安時代の人々が恐れたこと
そもそも饑饉や疫病、そしてさまざまな変事に悩まされ、早良親王の怨霊を恐れて、794年に長岡京から遷都してきたのが平安京です。
桓武天皇は怨霊や呪いを恐れ、四神相応という陰陽道の考え方によって結界を張り巡らした平安京を新たな都としました。
当時の人々は、現代と比べられないほど死後の世界やまじないの力を信じ、祟りや呪いを恐れて生きていたのです。
小野篁も安倍晴明もそんな時代背景の中から生まれたヒーローです。
逸話に見る小野篁と冥界
小野篁は、参議にまで出世して朝廷で活躍した知性派公卿です。
非常に優秀な人物ですが、彼は実は、今でいうダブルワークをしていたのです。
しかも、普通の人々には思いもつかないようなダークな世界で。
冥界の入り口 六道珍皇寺
京都市東山区にある六道珍皇寺。
ここは小野篁に大変ゆかりのある寺院です。
ここに篁が夜ごと通っていた「冥土通いの井戸」があります。
この井戸こそ彼の夜の職場・地獄の入り口。
なんと彼は、夜ごとこの井戸の中を高野槙(水に強い針葉樹)の枝を伝って降り、冥府で閻魔大王の裁判の補佐をしていたというのです。
この話は、平安後期の学者・大江匡房の口述を記録した『江談抄』や説話集『今昔物語』、仏教通史『元亨釈書』等にも見られます。
平安末期頃には小野篁が、閻魔庁での冥官だったという伝説が成立していたのです。
冥土通いの井戸は、寺の本堂裏の庭内に現存しています。
また近年、六道珍皇寺の旧境内だった土地からもう一つの井戸「黄泉がえりの井戸」が発見されました。
つまり地獄からの出口です。
その井戸の底には今も水がたたえられているのが見えますよ。
これらを使って篁が現世と冥界を行き来していたのです。
篁に助けられた人々
彼には、冥界に「顔が利く」ということから、地獄行きとなった人を助けたという逸話もあります。
【藤原良相】
病死して閻魔大王のもとに送られた右大臣・藤原良相。
彼は生前に、篁の流刑が決まる裁判で彼を擁護したことがありました。
地獄の入り口で良相と顔を合わせた冥官の篁は、閻魔大王をうまくとりなします。
おかげで病死したはずの良相は地獄に堕ちずに、再び現世に蘇生できました。
後日、良相が篁に礼を述べます。
すると、篁は「以前のお礼までのこと。私のことはご内密に」と告げたそうです。
【紫式部】
京都市北区紫野にある紫式部の墓所のそばには、なぜか小野篁の墓があります。
紫式部が生まれたのは篁が没して120年前後が経ってからなので、個人的な接点はないというのに、なぜでしょう?
実は紫式部は、死後に地獄に堕とされたと言われていました。
彼女の作品『源氏物語』で、皇族・貴族の愛欲、愛憎、そして闇を描いた罪のせいです。
それを残念に思った物語の愛好家たちが、冥界に力のある小野篁の墓を紫式部の墓の隣に移動させ、彼女の地獄からの救出を祈ったのだそうです。
その結果、紫式部は地獄から解放されたと信じられています。
小野篁と安倍晴明
さて、平安時代の異界担当としてナンバーワンの知名度を誇るのは、陰陽師・安倍晴明。
彼と小野篁とは、何か関係があったのでしょうか。
小野篁と安倍晴明は活躍時期が重なっていたか?
実は、彼らは同じ平安時代でも生まれた年代は100年以上も違うのです。
小野篁は802年生まれ、安倍晴明は921年生まれです。
晴明が100年以上も後に誕生したわけですね。
ですから、彼らに個人的な関係は一切ありません。
しかし、小野篁の朝廷での活躍や、冥官としての逸話などが安倍晴明の耳に入っていた可能性はあるかもしれませんね。
小野篁と安倍晴明との共通点・相違点
異界に繋がり、彼らに助けられた人もいる点は、2人の共通点でしょう。
しかし、それぞれの立場は違います。
本職とは別に、閻魔大王と一緒に働いていていた小野篁は、あくまでセカンドワークとしての地獄のスタッフでした。
そして、時には地獄に堕ちそうになった紫式部や藤原良相らを地獄の冥官として「冥界から」助けました。
一方、安倍晴明は、陰陽寮という朝廷の役所に籍を置き、本職の陰陽師として暦を読み、祈祷、悪霊払いなどを行っていました。
不吉な出来事の原因を調べ、祓いをし、呪いを封じ、怨霊など異界の者を調伏するのが彼の正式な仕事だったのです。
式神を使い、超人的な活躍も伝えられる晴明ですが、彼は「現世で」人助けをしていたといえます。
冥界・異界と現世。
二人は時と立場は違いながら、彼らの超越した能力で平安京の悩める人々を助けていた共通点があります。
きょうのまとめ
今回は、冥界に通じた平安初期の公卿・小野篁の活躍ぶりの逸話と、同様に平安時代の中期に活躍した陰陽師・安倍晴明と篁との違いについて比較してみました。
簡単にまとめると
① 小野篁は朝廷では重職についていたが、夜には冥界で閻魔大王の補佐として働いていたとされる
② 篁はその冥界での影響力を使って、恩のある藤原良相や才能ある紫式部を地獄に落ちるのから救ったとされる
③ 篁と安倍晴明とは活躍した時代が違うので面識はないが、篁は冥界から、晴明は人間界でそれぞれ人々のために働いた
今回ご紹介した話しは、全て逸話を元にしていますから、事実とかけ離れた部分も大いにあるでしょう。
しかし、地獄への入り口と出口だという現存する2つの井戸を見ながら、
「もしかして・・・」と考えるのも、実在した小野篁という人物に興味を持つきっかけとして悪くはないですよ。
小野篁の年表を含む【完全版まとめ】記事はこちらをどうぞ。
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