横井小楠は、幕末の儒学者・思想家でした。
熊本藩士でしたが、福井藩16代藩主・松平春嶽に招かれて政治顧問にもなった人物です。
幕末から明治期に活躍した西郷・大久保・木戸と並ぶ「維新十傑」の1人でした。
彼が残した名言、そして同時代に生きた人々による小楠評についてご紹介しましょう。
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横井小楠の4つの名言
書巻何ぞ須く句解の為
些末なことに目くじらを立ててしまって、著者が最も言いたい大きなことを見逃していては意味がないのです。
「読書」に対する姿勢について諭す言葉です。
人必死の地に入れば、心必ず決す
(絶体絶命の状況になれば、すべてのことが決断できる)
迷ってしまいそうなことがあっても、必死で物事に取り組む状態になれば、心を決めざるを得なくなって道が開けるものなのです。
政治は王道を歩むべき
(策謀を用いる力の権力ではなく、政治は民衆のために誠実におこなえ)
「王道」とは、武力に頼らず、人徳や信頼で万人からの支持を得て平和な世の中を作ること。
「覇道」とは、力づくで民衆を屈服させ、権力によって平穏を実現することです。
当時の状況で言えば、徳川家中心の政治を辞め、政治に多くの人々の意見を反映させるべきとの考えです。
現代に通じるこの民主主義的考え方を横井小楠は既に見通していたのです。
送左大二姪洋行
小楠の甥・横井左平太(22歳)と大平(17歳)兄弟が、日本初の官費留学生として渡米する時の小楠の送別の漢詩「左平太、太平二甥の洋行に際して」の漢詩です。
尽西洋器械之術(西洋器械の術を盡くす)
何止富國何止強兵(何ぞ富國に止まらん、何ぞ強兵に止まらん)
布大義四海而已(大義を四海に布かんのみ)
有逆於心勿尤人(心に逆らうこと有るも人を尤むること勿れ)
尤人損徳(人を尤むれば徳を損ず)
有所欲爲勿正心(為さんと欲する所有るも心に正にする勿れ)
正心破事(心を正にすれば事を破る)
君子之道在脩身(君子の道は身を脩むるに有り)
(これからの日本は、中国神話に登場する堯と舜2代の高徳ある君主(堯と舜2代の高徳ある君主=儒家によって神聖視された聖人のこと)の心を学び、理解した上で、西洋文化を取り入れ、国を富まし、それを世界に広めなければならない。
意に染まないことがあっても人を咎めるな。人を咎めれば品性を失う。
やりたいと思うことに成果をあてにするな。あてにすると、事は失敗する。
立派な人物となるには、自分の生き方、修養を積んでいくことにある)
2人の甥たちに政治、社会の見方を示した前半4行が特に知られています。
後半5行に書かれてある個人の修養ができてこそ、前半4行で述べている西洋の技術を採り入れて国を豊かにし、それを世界に還元することができると説きました。
明治政府の国策「富国強兵」政策に通じる考えです。
横井小楠評
勝海舟による小楠評
勝海舟は元幕臣で、のちに明治政府で要職を歴任しました。
歯に衣着せぬ物言いをする人物として知られ、多くの名言を残した海舟は、横井小楠を非常に高く評価しています。
彼が怖れた通り、本当に大政奉還の後の王政復古という政治変革が起きました。
これは、西郷隆盛ら薩長のメンバーにより横井小楠の思想をより現実的な形にしたものです。
官僚・儒学者の徳富一敬による小楠評
歴史家・評論家の徳富蘇峰と小説家・徳冨蘆花の父親だった徳富一敬は、小楠の容貌や性格について以下のように述べています。
・眉がつり上がり、眼光鋭く、鋭気をみなぎらせた身体
・弁舌さわやかで、皆を話に納得させた
・知略策略が嫌
・情愛が深い
・書生の教育などは、人の性質にあわせて自然に誘導するように行った
・物事を利害で考えること、へつらうことを激しく責めた
将軍・徳川慶喜による小楠評
のちに江戸幕府第15代将軍となる徳川慶喜が、将軍・徳川家茂の後見職だったことがあります。
その時、政事総裁職だった松平春嶽と横井小楠が共に慶喜を助けて幕政改革を推進していました。
慶喜はその時に小楠について、
と評しています。
横井小楠は、このように錚々たるメンバーに高く評価されています。
他にも坂本龍馬、吉田松陰、高杉晋作、岩倉具視、橋本左内など多くの同時代の人々と意見交換をして影響を及ぼし、日本の夜明けに貢献しました。
きょうのまとめ
今回は横井小楠が残した名言と彼についての人物評についてご紹介しました。
簡単なまとめ
① 幕末に活躍した横井小楠は、人の行いや日本の将来についての考察をいくつかの名言にして残した
② 小楠の発言は同時代に活躍した多くの思想家、運動家、政治家に感銘を与えた
③ 勝海舟は先見性のある思想を持つ小楠を、西郷隆盛と共に天下で恐ろしい2人の人物と評価した
横井小楠は「先見性のある論理的な思想」を武器に、明治の日本を作っていった多くの活動家、政治家に影響を与えたわけですね。
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