謎の浮世絵師・写楽の絵の変遷と代表作はこれだ

 

江戸時代の浮世絵師・東洲斎写楽とうしゅうさいしゃらく

あなたもこの名前を一度は耳にしたことがあるでしょう。

現代でも写楽関連の展示会はいつも大人気。

代表作は、あなたもご存知かもしれません。

 

4つの時期でそれぞれ違うイメージ?写楽の代表作5点

現存する写楽作品の大部分は版画です。

作品としては役者絵・相撲絵を描くことが多く、中には武者絵や福神などの作品もあります。

彼が絵師として活躍したのは、1794年から1795年の間のたった10ヶ月

それを4つの時期に分けて、それぞれの時期の代表作を5点ご紹介しましょう。

 

第1期「大胆デビュー」:1794年5月

写楽のデビュー作は、全部で28図現存しています。

全て「役者絵」と呼ばれる、当時の都座・桐座・河原崎座に出演した歌舞伎役者の役柄の絵です。

特徴:豪華で大胆

・新人絵師としては豪華で珍しい「黒雲母摺くろきらずり」という鉱石・雲母うんもの粉を絵の具に混ぜてキラキラ光る背景を作る手法を用いた

・大胆な大判サイズの大首絵おおくびえ(胸から上を描いたポートレート)だった

役者のブロマイド的な意味があった大首絵。

写楽作品の背景は、キラキラした豪華でインパクト満点です。

いわゆる「写楽の絵」とはこの時期の作品のことで、彼の個性が最もよく発揮された時期でした。

①三代目大谷鬼次の江戸兵衛

三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛
出典:Wikipedia

【重要文化財/1794年/大判(36.8×23.6cm)】

江戸兵衛とは、『恋女房染分手綱こいにょうぼうそめわけたずな』に登場する悪役です。

一文字の口、赤く縁取られた凄みのある目、安っぽく派手な衣裳の色がいかにもチンピラっぽい外見。

そして注目は、アンバランスな小さな手。デッサン的にはおかしい下手に描かれた手がよけいに邪悪さを醸し出していますよね。

この絵の人気の秘密は手の表現によるところが大きいと言われています。

版画として彫師の作業の効率上、色数を抑えて「彫る」「摺る」工程をシンプルにしながらも迫力満点の作品は、まさに「写楽」。

②市川鰕蔵の竹村定之進

【重要文化財/市川鰕蔵の竹村定之進:1794年/大判錦絵(約37cm x 25cm)】

こちらも『恋女房染分手綱』に登場する竹村定之進の絵です。

ポイントは、美しい襟元、シンプルな配色、そして名優・市川蝦蔵えびぞうの特徴を捉えた大胆な顔の表現です。

生き生きとした眼、極端につり上がった眉、力が入ってゆがんだ口元、特徴ある鼻や輪郭のラインとシワ。

デフォルメされた似顔絵のような絵ですが、名優の顔と役柄の特徴が見事に捉えられました。

 

第2期「全身像」:1794年8月

デビュー作品群「大首絵」の大胆な役者の顔の描写が一般ウケしなかった写楽は、作品の方向転換をしました。

特徴:伸びやかな全身像

・背景の雲母摺きらずりは継続

・大判なら1枚に2人、細版(ほそばん/約33cm x 15cmサイズ)なら1枚に1人の全身像

・伸びやかなラインで芝居のワンシーンを描く

③三代目市川高麗蔵の亀屋忠兵衛と初代中山富三郎の新町のけいせい梅川

【三代目市川高麗蔵いちかわこまぞうの亀屋忠兵衛と初代中山富三郎の新町のけいせい梅川:1794年/大判錦絵(約36cm x 24cm)】

1期と同様黒雲母を用いた無地の背景ですが、芝居の一場面を切り取るように全身描かれました。

相合い傘を一緒に握るカップルは、遊女・梅川と飛脚問屋の養子・忠兵衛。

これから心中するのです。

黒っぽい背景に浮き上がる青白い肌の色が悲しげで、揃いの色の着物と帯を身につけた2人の覚悟が窺われます。

身体のひねり、立ち方など、全身像だからこそ表現できる面白さがあります。

 

第3期「背景に変化」:1974年11月、閏11月

背景のある作品が登場。

おそらく人気の絵のスタイルを試行錯誤しながら探していたのでしょう。

人々の特徴を1つ1つ捉えた絶妙な筆致はさすが写楽。

特徴:題材と背景に変化

・相撲絵や追善絵など、時事的な話題やイベントを描いた作品の登場

・細判役者絵の背景に小道具や情景が描き込まれる

・大首絵の背景には黄色く塗りつぶす「黄つぶし」を用いた

④大童山文五郎の土俵入り

【大童山文五郎の土俵入り:1794年/間判あいばん 錦絵(約33cm x 23cm)】

当時話題のちびっこ力士、大童山文五郎だいどうざんぶんごろうが化粧回しをつけて土俵入りするイベントを描きました。

数え年8歳で身長約1.2m、体重約80kgという怪童の大童山は、江戸の人気者。

写楽は、作品に登場している力士たちの個性を1人1人見事に捉えて表現しています。

 

第4期「舞台の背景を描く」:1975年正月

実は、この時期の作品は多くは残っていません。写楽の人気が落ちていったことが原因だと考えられます。

特徴:連続背景の細判

・細判作品のみの役者絵・相撲絵

・連続した背景の役者絵は数枚繋がっている

・舞台の芝居を意識させる背景で説明的

⑤三代目市川八百蔵の曾我の十郎祐成

【三代目市川八百蔵の曾我の十郎祐成:1795年/細判錦絵(約33cm x 15cm)】

三代目市川八百蔵いちかわやおぞうの曾我の十郎祐成じゅうろうすけなり(左)

六代目市川団十郎の曾我の五郎時宗ごろうときむね(中)

市川鰕蔵の工藤左衛門祐経くどうさえもんすけつね(右)とつながる細判の作品のうちの1枚。

並べると舞台を描いた背景が繋がっています。

初期のようなインパクトはありません。

販売のために、写楽は自分の個性を抑えて作品作りをしたのかもしれません。

初期とはあまりに違う形式的になった絵の様子に、そうなった背景を考えずにはいられません。

 

写楽の絵は売れなかった?

写楽が10ヶ月という短期間しか活動しなかった理由の1つとして、彼の特徴ある画風が、当時は大衆にウケなかったことが挙げられます。

ひいきの役者のカッコ良く、また美化された顔の絵が欲しかったファンは、役者の顔の特徴が露骨にデフォルメされた写楽の絵を喜びませんでした。

役者も描かれた自分の描かれ方が気にくわなかったといいます。

演者の個性を鋭く捉え、役柄の特徴と合わせて見事に表現された彼の作品は、残念ながら大胆すぎて商売としては成功しなかったのです。

 

きょうのまとめ

今回は、東洲斎写楽作品の特徴の変遷と代表作をご紹介しました。

簡単なまとめ

① 浮世絵師・写楽の短い10ヶ月の活動期間は4期に分けられる

② いわゆる写楽のイメージが強い絵は、デビュー当時の第1期作品群

③ 最も特徴的で有名な作品は、重要文化財「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」

④ モデルの個性的な顔立ちを強調した写楽作品は、大衆ウケしなかった

でした。

 

写楽の年表を含む【完全版まとめ】記事はこちらをどうぞ。
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歴史ライター、商業コピーライター 愛媛生まれ大阪育ち。バンコク、ロンドンを経て現在マドリッド在住。日本史オタク。趣味は、日本史の中でまだよく知られていない素敵な人物を発掘すること。路上生活者や移民の観察、空想。よっぱらい師匠の言葉「漫画は文化」を深く信じている。 明石 白(@akashihaku)Twitter https://twitter.com/akashihaku