平安初期の朝廷で参議として活躍した公卿・小野篁は優れた政務能力で知られた人物でした。
そんな彼は遣唐使の副使として選ばれます。
しかし、篁のあだ名は「小野の普通じゃない、反骨精神あふれる奴」を意味する「野狂」。
あることがきっかけで問題を起こすのです。
当時の遣唐使状況
遣唐使とは、600年に始まった遣隋使に継続して630年からは日本から唐へと派遣した使節団のことです。
中国の先進的な技術・制度・文化を学び、仏教経典の収集などにおおいに役立った遣唐使ですが、9世紀頃から遣唐使についての情勢が変わってきていました。
755年から763年に続いた唐で起きた反乱・安史の乱以降は、唐の国内情勢も不安定。
以前は厚遇され、唐とはよい関係を保っていた日本でしたが、だんだんそれも冷遇されるようになります。
また、日本には「渡海制」と呼ばれる国家の許可を受けた者以外の海外渡航を禁止する法律があり、遣唐使の間隔が空いてしまうと、遣使を行うための航海技術や造船技術が低下していきました。
そうなると海難事故が増え、それによって唐へ渡りたいという意欲も低下していったのです。
まず、小野篁が副使となった遣唐使の当時の状況にはこのような背景があったということを理解する必要があります。
遣唐使を断った小野篁の反骨精神
抗議の乗船拒否
834年、小野篁は遣隋使・小野妹子を先祖に持つ外交系の家の出ということもあり、遣唐副使に任ぜられました。
篁は、約188cmの高身長で眉目秀麗。
遣唐使に選ばれるのは、教養の高さの他に日本を代表するに恥ずかしくない外見の良さも人選の基準だったそうです。
篁の官位も835年に従五位上、836年には正五位下と上がり、遣唐使船は同年唐へ向けて出帆しました。
ところが、その時も翌年も2回とも天候悪く、航海に失敗してしまいました。
そして、838年に3回目の航海をするときに問題が起きたのです。
遣唐大使の藤原常嗣が乗船する第一船が損傷して漏水していました。
そこで、常嗣は小野篁が乗る予定だった第二船のほうを第一船ということにして、勝手に乗船してしまったのです。
それに怒った篁はその理不尽さを抗議し、持病の癪(胸部・腹部におきる激痛)と老母の世話を理由にして乗船を拒否してしまいました。
最終的に遣唐使船は、篁を残したまま出発してしまいます。
遣唐使なんて時代遅れ
残った篁は、怨みの気持ちを込めて『西道謡』という遣唐使の事業や朝廷を風刺する漢詩を作りました。
ちなみに篁は漢詩を作る名手でした。
勢いに任せて過激な表現を多用し「遣唐使なんて時代遅れ」といった内容の漢詩を作ったのです。
小野篁の考えの根底には、先述しているような、遣唐使が危険を冒してまで渡航する意味が薄れてきていた実情を踏まえてのことでもあったと考えられています。
「野狂」と呼ばれた怖い物知らずの篁は、
・命を賭けて中国へと渡る人々の命の重さを考えずにいる朝廷
・低下してきていた遣唐使派遣の価値
などの不条理について鋭く突いたわけです。
篁のその後と遣唐使のその後
篁の書いた、朝廷や制度を批判する漢詩を読んだ嵯峨上皇は激怒。
そして、篁の官位を剥奪して流罪に処してしまいました。
篁は隠岐国(島根県)の島へと配流されてしまったのです。
結局、唐へ渡ることに成功した藤原常嗣らの遣唐使一行は、遣唐副使不在のままで長安に到着しています。
不在の副使の代わりに、長岑高名という人物が副使扱いとなりましたが、彼も日本への帰国時に藤原常嗣と航路を巡って対立。
やはりくすぶっていた問題があったようです。
彼らは結局、長岑高名の主張するルートで839年に無事に日本に帰国しました。
そして、このときの遣唐使が実質上最後の遣唐使となったのです。
のちに計画された遣唐使派遣は、あの菅原道真によって延期とされています。
結局実施されないまま廃止となっていますから、どうやら篁の見通しは正しかったわけです。
ちなみに、流罪された篁のことはそれほど心配しなくても大丈夫です。
なぜなら、彼は流罪に処されてからたった2年後の840年には平安京に呼び戻されていますから。
きょうのまとめ
今回は小野篁が断った遣唐使の役についてご紹介いたしました。
簡単にまとめると
① 小野篁が遣唐使を断った理由は、人の命を軽んじる理不尽な上司と朝廷への抗議の意味があった
② 篁は遣唐使が以前ほどの価値を持たなくなったことを見抜いていた
③ 篁が拒否した航海が最後の遣唐使船となった
土壇場になって遣唐使を断り、批判を承知でアブナイ漢詩を作ったりする小野篁は「野狂」と呼ばれるだけのことはあります。
しかし、そんな行動の根幹に世の中を見通す鋭い知性、何事にも流されない強さを感じさせる人物ですね。
小野篁の年表を含む【完全版まとめ】記事はこちらをどうぞ。
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