全世界におけるカトリックの最高指導者ローマ教皇を決める選挙のことをコンクラーヴェといいます。
今のシステムでは全投票数の3分の2以上をだれかが獲得するまで何度でも行われます。
ちなみにそのコンクラーヴェが行われる場所が今のバチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂です。
この広い天井と祭壇をいろどったのがルネッサンスの巨匠ミケランジェロの絵画。
キリスト教の聖人や『旧約聖書』に描かれたシーンがふんだんに描かれております。
今回はそんな超大作にまつわる歴史物語を紹介しましょう。
システィーナ礼拝堂天井画の注文
1505年、まだ30才の若い彫刻家ミケランジェロは時のローマ教皇ユリウス2世に呼び出されました。
そして、ユリウス2世がミケランジェロに命じたのが自分の墓の制作。
ミケランジェロはこの仕事を快く引き受けました。
しかし、思わぬジャマが入ります。
ユリウス2世その人です。
なぜなのかはわかりません。
が、ユリウス2世は
「システィーナ礼拝堂の天井画を新しいのに描きなおしてほしい」
と大仕事を強引に横入れします。
しかも、ミケランジェロは彫刻家が専門です。
絵画はできればやりたくありません(ライバル芸術家によるミケランジェロを落としこめる策略だった、と当時の伝記には記されています)。
しかし、ミケランジェロはとりあえず引き受けることとします。
わがまま教皇と短気なミケランジェロ
そもそもまだ墓を作っていた時に原料である大理石の運賃をはらってもらおうとミケランジェロがかけつけると、ユリウス2世は門前ばらい。
2度3度つめかけてもやっぱりダメです。
この時、ミケランジェロは嫌になってフィレンツェに荷物をまとめて帰ってしまいます。
ユリウス2世からの再三の呼びかけを全部無視。
しかし、フィレンツェにほど近いボローニャがローマに占領されると、ミケランジェロはさすがに参って出頭しました。
すると今度は
「許してやるかわりに私のブロンズ像を作れ」
です。
ミケランジェロはブロンズ像作りも専門外です。
大変な仕事ぶり
ミケランジェロはうけおう仕事には徹底的にこだわります。
そのため、弟子たち全6人の作業が気に食わない、とみんなクビに。
おかげで、一人でこの大作業に挑まなければならなくなります。
しかも、天井下の狭く薄暗い足場から、時に立ちっぱなしで、あるいはあおむけに寝そべりながら、ずっと天井を向いて作業をしなくてはなりません。
この時にミケランジェロが残した詩の一節です。
晩年のミケランジェロは腰や目を悪くしましたが、この影響はかなりあるかもしれません。
制作年数4年。
あまりに見事な出来栄えに、教皇をはじめ、見上げた人々はおどろきいったことでしょう。
ミケランジェロの意地
ただ、ミケランジェロだって本来のガンコさがあります。
わがまま命じられるままにされていただけではありません。
『旧約聖書』に書かれる「ノアの箱舟」の話は知っていますか。
あまりにおごりたかぶった人間におこった神が地上に大雨を降らし、善良なノア一家以外をみんなおぼれ死にさせてしまう、という筋書きです。
救われたノアは神に祈りをささげ、ワインを飲んで酔っぱらい、裸になって眠ってしまいます。
それを見た息子のハムがほかの二人の兄弟に知らせ、着物を持ってこさせます。
ハムはそれを父の体にそっとかぶせました。
しかし、起きてそれと知ったノア。
はじらいで息子ハムをのろいます。
これが一般的な筋書き。
ですが、システィーナ礼拝堂にミケランジェロが描いた「ノアのシーン」はちょっとちがいます。
ハムだけでなく兄弟みながノアの裸を見てしまっております。
ミケランジェロはこの絵のまま押し通させました。
いったいどんな意味をこめていたのでしょう。
きょうのまとめ
システィーナ礼拝堂の祭壇にはこちらも代表大作『最後の審判』を描き上げました。
この時、あるえらいさんから
「なんだこの裸ばっかりの絵ははしたない!」
とばかりに修正を命じられました。
しかし、ミケランジェロはやっぱりこの時も押し通します。
そして、さりげなくこのえらいさんをこの絵の中に大蛇にかまれて苦しんでいる姿で登場させてしまいました。
① ミケランジェロはローマ教皇ユリウス2世のわがままにかなりふりまわされた
② ミケランジェロは初めいやいやの大変な仕事だったが、システィーナ礼拝堂の天井画を見事な出来栄えで完成させた
③ ミケランジェロはシスティーナ礼拝堂の絵の中でゆずれないいろんなものをさりげなく押し通している
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らくだのこぶ、体は竪琴のようにひん曲がっている、
絵筆がせわしなく動くので、
顔は絵の具のしずくを浴びた色とりどりの床になっている
……(中略)……
僕の完成しない絵を、
守ってくれ、ジョバンニ(友だちの名前)よ、それに僕の栄誉もだ。
ここはぼくの場所じゃない、ぼくは絵描きじゃないからだ。