あなたは『旧約聖書』の「アダムとイヴ」の話を知っていますか。
神が最初に造った人間の男と女、それがアダムとイヴ。
ここから神と人間とこの世界による壮大な神話がつむがれてゆくのです。
ルネッサンスの大彫刻家ミケランジェロ。
彼はシスティーナ礼拝堂の天井画制作という大仕事でこの題材をあつかうことになりました。
ミケランジェロが描き出した世界もまじえて説明してまいりましょう。
アダム創造
神はまず1日目光と闇を造りました。
2日目には空を造りました。
さらに2日目には、大地を造り、海を造り、植物を生えさせました。
4日目には、太陽と月と星を。
5日目には鳥と魚を。
そして6日目にはケモノと家畜を造り上げます。
神はこの時考えました。
「動物たちを従わせるものが必要だ。そうだ私の姿に似せて造ろう。この存在こそ人だ。」
神は
「大地の塵(ちり)で人を形作り、その鼻から命の息吹を吹き込んだ」
とされます。
しかし、ミケランジェロの「アダム創造」は少し違います。
大地の上でボーッと横たわる青年アダム。
まだ生まれたばかりで意識がはっきりしないのでしょうか。
そこへ天空から赤いマントを背にひるがえし、12人の天使たちとともに神が飛んでまいります。
その長く伸ばした右腕の人差し指とアダムの人差し指が今まさに触(ふ)れようとする瞬間、命が目覚めます。
イヴ創造
一方、イヴはどうでしょうか。
「創世記」によると、アダムは神の導きで深い眠りに落ちました。
そして、神はアダムの肋骨(ろっこつ)を1本ぬき取り、女を造り上げます。
イヴです。
こちらはミケランジェロ作によると、イヴはぐっすり眠っているアダムのかたわらで神に拝みこむように両手を差し出しております。
神に何か手繰られているようにも見えます。
楽園追放
アダムとイヴが暮らしていたのは「エデンの園」と呼ばれる楽園です。
神は二人に
「ここにある木の実はどれを食べてもよい。ただし、ひとつだけ食べてはいけないものがある。それが知恵の実だ。」
と言いわたします。
二人はこの言いつけをちゃんと守ってこれまで通り幸せに暮らします。
ところが、ずるがしこいヘビがイヴにこうささやきます。
「これを食べれば、君は神のようになんでも善悪の判断ができるようになれる」
こうして、イヴは禁断の実を食べてしまいます。
そして、それをアダムにも与えてしまいました。
神は怒り、彼らを楽園から追放してしまいます。
ミケランジェロ作では1つの絵に2つの場面を合わせて描き出しています。
●画面左側が、ヘビが二人をそそのかしているシーン。
ここでは“知恵の実”がヨルダンに多いイチジクになっております。
ただ、一般的にはリンゴです。
●右側が楽園追放のシーン。
天使が二人をツエで追いやっております。
ノアの洪水
アダムとイヴにはたくさんの子どもが生まれました。
そして、その子孫はやがて繁栄してゆきます。
しかし、やがておごり高ぶりだした人間たちに神は罰(ばつ)を与えます。
神は心清らかなノアとその家族にだけ、
「間もなく地上すべてをおおう洪水を降らせる」
ことを知らせます。
そして、
「この世界中のあらゆる動物のつがいを集め、それらを載せるだけ大きな箱舟(はこぶね)を造る」
ことを命じます。
ノアらは言いつけ通り造り上げると、間もなく地上には雨が降り出し、いつまでもやまず、世界は水びたしとなってゆくのです。
ミケランジェロ作ではすでに洪水によって地上の大部分は海のようになっております。
そして、人々はわずかな陸地に身を寄せ合うよう追いこまれております。
よく見ると、水面上にはたらい船のようなものにたくさんの人たちが群がり乗っております。
これもやがてしずむのでしょう。
そして、さらに奥にはノアの箱舟が。
この絵には当時腐敗していたローマ教皇庁への皮肉が描かれているとも言われます。
ミケランジェロは教皇ユリウス2世によるあまりにものわがままさをその身で経験しております。
さりげなく作品に皮肉を当てこむのが好きなミケランジェロは行く当てもなく逃げまどう人々に何かを託(たく)したのかもしれませんね。
きょうのまとめ
ミケランジェロはレオナルド・ダ・ヴィンチに比べると、キリスト教的な画風が目立ちます。
また一方で、世の負の部分もおおいかくすことなく描きつくそうとしております。
そんな清と闇(やみ)をありありとまじえたダイナミズムこそがミケランジェロの真骨頂(しんこっちょう)です。
① ミケランジェロの「アダム創造」は指と指の交わりで命が吹きこまれることを表そうとした
② ミケランジェロの「楽園追放」では一枚で2つのシーンを描き出し、知恵の実をイチジクで表現した
③ ミケランジェロの「ノアの洪水」には当時のローマ教皇庁への皮肉が込められている、という説がある
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