太宰治の名言|苦悩の生涯を物語る言葉たち

 

明治~昭和初期にかけて、自身の壮絶な生き様を投影した作品を次々と世に送り出し、

注目を集めた作家・太宰治だざいおさむ

彼は決して堅実な人物とはいえず、その人生にしても失敗の連続でした。

しかしだからこそ、人生に対して人一倍真剣に考えてきた人でもあります。

成功談よりも失敗談のほうが学べることは多いといいますから、彼の残した言葉はまさにうってつけです。

偏っていて、とことん人間臭い。優れている部分もあるけど、欠陥も多い。

今回はそんな太宰治の作品から名言を厳選し、紹介していきましょう。

 

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太宰治の名言

太宰治

太宰治
出典:Wikipedia

勉強の意味

学問なんて、覚えると同時に忘れてしまっていいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。

(出典:正義と微笑)

1942年初出の『正義と微笑』からの一節です。

学校の授業を受けていて、「なんの役に立つんだ?」とは、誰しも少なからず思ったことがあるもの。

数学の公式にしても、理科の実験にしても、社会に出て仕事をするときには直接役に立つものは少ないです。

では、勉強して何になるのでしょう。その答えが、このセリフには詰まっています。

万人に必要な知識など、そう多くはありません。

しかしその人にどんな知識が必要になるかは、進む分野にもよるもので、後になってみないとわからないから、いろんなことを勉強するのです。

そしてほとんど忘れてしまっても、本当に大事だなと感じた部分は、とっかかりとなって残るもの。

また一生懸命勉強した経験がある人は、仕事において勉強が必要になったときでも労せず取り組むことができるはずです。

兄弟でも特に成績優秀で、小学校時代は「学校始まって以来の秀才」と呼ばれた太宰だからこそ、こういうことも実感としてわかるのでしょう。

人生の苦悩

大人とは、裏切られた青年の姿である。

(出典:津軽)

こちらは1944年発表の『津軽』からのセリフ。

誰しも子ども時代は夢を見るものですが、多くの人が大人になると諦めてしまいます。

そこには「暮らしていけない」「簡単になれるものではない」「反対された」…など、さまざまな理由がありますが、まとめるとどれも”現実に裏切られた”ということです。

現実を知り、自分のやりたいことを諦めて渋々、無難な仕事に就く。

そんなどこか疲れた大人の様子を、太宰は”裏切られた青年”と表現したのでしょう。

彼自身は小説家という夢が叶っています。

しかし何度も自殺を試みているところから察すると、太宰自身もやはり人生が思うようにいかず、現実に裏切られたうちの一人だったのです。

実家があるのに帰れない辛さ

君のような秀才にはわかるまいが、「自分の生きていることが、人に迷惑をかける。僕は余計者だ」という意識ほどつらい思いは世の中に無い。

(出典:パンドラのはこ

1946年初出の『パンドラのはこ』からの一節。

1930年のこと、大学に通い始めたばかりの太宰は、芸者の小山初代との結婚をめぐって反対を受け、実家から除籍されてしまいます。

そこから母の死期が迫って見舞いに訪れるまで、彼は10年来、実家の津島家の門をくぐることを許されませんでした。

実家があるのに帰れない。兄弟で自分だけが門をくぐることを許されない。

家族の縁とは本来切っても切れないものですから、これは太宰が「自分はこの世にいらない存在なんだ」と思うには、十分な出来事だったといえます。

実家よりも自分の恋愛を選んだ彼ですが、家族への愛や、地元の名手・津島家の人間であることの誇りも本当は捨てがたく、初代との結婚も苦渋の決断だったのです。

恋愛はチャンスではない

恋愛は、チャンスではないと思う。私はそれを意志だと思う。

(出典:チャンス)

1946年に発表された『チャンス』からの一節です。

恋愛は人を成長させてくれるチャンスとはよく言ったもの。

パートナーは近しい存在だからこそ、思いやることが難しかったりします。

しかし太宰はその恋愛を、チャンスだと思ってするものではないと言っているのです。

具体的には、人間として成長できるチャンスだと思って思いやるのではなく、「思いやりたいから思いやる」というようなことでしょう。

たとえばケンカしそうになって、グッと我慢して相手に譲る場面も必要なことはあります。

しかし相手の言い分を理解せずに譲るより、ケンカして言い分を理解し合ってから譲るほうが誠実だとはいえないでしょうか。

成長うんぬんではなく、自分の意志。

自分がそのことに対してどう思っているのかを相手にちゃんと伝えることが、恋愛において重要だと、太宰は言いたいのでしょう。

太宰は生涯に多くの女性を愛しましたが、彼がモテたのは、素直な感情で恋愛に向き合うその姿勢にあったのかもしれませんね。

不倫は決して誠実とはいえませんが…「全員愛している」というのもまた、彼の意志なのです。

 

きょうのまとめ

順風満帆とはいえない生涯を送った太宰治ですが、その名言を辿ると、彼がいかに鋭い目で世の中の真理を見ていたかが伝わります。

太宰ほどの波乱万丈を味わう機会というのはそうそうありませんから、作品を通して彼の経験してきたことを体感してみると、また価値観も磨かれるのではないでしょうか。

最後に今回のまとめをしておきましょう。

① いろいろなことを勉強するのは、その人に本当に必要な知識が最初からわかるものではないから

② 大人が疲れた顔をしているのは、現実を知って諦めてしまったから

③ 相手に合わせるのではなく、ぶつかってちゃんと理解しようとするのが誠実な恋愛

どの名言も、やはり彼自身の苦労のなかに成り立っていることがわかるから、説得力があるのですね。

 
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