時は幕末。
長州に生まれた久坂玄瑞は、藩医だった父親の跡を継ぎました。
しかし、混乱する時代の中で、彼は長州藩の尊皇攘夷派の中心となっていきます。
次第に過激になっていく活動の中で、玄瑞は考え、悩みながら多くの名言を残しました。
どこか人間味のある玄瑞の強気な言葉、影響力のある言葉、そして哀しみをたたえた言葉などを見ていきましょう。
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久坂玄瑞の名言
元々詩歌が好きで、秀才の久坂玄瑞。
遊学中などに、宮部鼎蔵や吉田松陰と知り合ううちにその尊皇攘夷の心を強くしていきました。
桂小五郎、高杉晋作、坂本龍馬、西郷隆盛らの活動家たちとも交流を持っています。
玄瑞の才能と生き方そしてその言葉には多くの人が感化されました。
御楯武士
1862年に久坂玄瑞が尊皇の思いを綴った『御楯武士』があります。
「一つとや・・・」から始まり、十まである数え歌になっています。いくつかをご紹介しましょう。
「二つとや、富士の御山は崩るとも、心岩金砕けやせぬ、これ、砕けやせぬ。」
(たとえ富士山が崩壊しても、自分の意志が砕けることはない)
意志の固さを仲間に確認し、同時に自分自身に言い聞かせるような言葉です。
「四つとや、世のよし悪しはともかくも、誠の道を踏むがよい、踏むがよい。」
(世の中で言われる良し悪しに囚われず、自分の信じる道を進め)
幕末とは、それまでの常識がひっくり返った時代です。
混沌の時代の中で、周囲に意見を左右されるのではなく、自分が信じた道を迷わずに進め、という玄瑞のアドバイスのようです。
「五つとや、生くも死ぬるも大君の、勅のままに随はん、なに、そむくべき。」
(生きるも死ぬも天皇のおっしゃるままに従おう。背くべきではない)
こんなに天皇を思っていた玄瑞ですが、最後は孝明天皇に見放され、自ら命を絶つことになったのはさぞかし無念だったでしょう。
「九つとや、今夜も今も知れぬ身ぞ、早く功をたてよかし、これ、おくれるな。」
(今夜にも今にも死ぬ運命かもしれないのだ。功を立てるなら早くせよ)
かつて長州藩は、攘夷をリードする立場にありました。
しかし、生麦事件や薩英戦争などの過激な攘夷行動を取った薩摩藩にその地位を奪われてしまいます。
長州藩士としてそのことを憂う、玄瑞なりの焦りもあったのでしょう。
活動がますます過激になっていくとき、自分自身の命がそう長くはないことを感じていたのかもしれません。
玄瑞と月
玄瑞が月を歌にするとき、どうしてかとても寂しい歌になってしまうようです。
早くに家族全てを失った天涯孤独の身のせいなのか、彼の本心をじっと見つめていたのは、幕末の月だけだったのかもしれません。
「けふもまた しられぬ露のいのちもて 千とせも照らす 月をみるかな」
(いつ終わるとも知れない露のような命と千年も変わらず照らし続ける月が見える)
動乱の時代に生きた玄瑞は、自分のような儚い命とおそらくこれからも変わりなく世を照らし続ける月を比べたときの無常をうたっています。
「ほととぎす 血に泣く聲は 有明の 月より他に 知る人もなき」
(ホトトギスが血を吐くほど鳴くその声は、明け方の月以外誰も知らないのだ)
「あさましい考えを持った兄が、兄思いの優しい弟を疑って殺してしまう。間違いに気づいた兄がホトトギスに身を変え、血を吐くほど鳴いて後悔した」という故事のホトトギスに玄瑞自身を見立てた歌です。
必死の思いで自分の意見を伝えても周囲に受け入れてもらえない空しさが感じられます。
玄瑞の辞世だとも言われますが、明らかではありません。
1874年発行の幕末の志士たちの歌をまとめた『義烈回天百首』に収録されている歌です。
久坂玄瑞最期の言葉
1864年の禁門の変。
長州藩は 2千で、対する幕府側の2万もしくは3万と言われる数の兵と戦い、総崩れとなりました。
その際、玄瑞は鷹司輔煕に朝廷への嘆願を要請するため屋敷に侵入しますが、輔煕に要請を拒絶されてしまいました。
既に戦いで骨にまで達する重傷を負っていた玄瑞は、自害する覚悟を決めて周囲の者にこう言いました。
「僕はこれまでだ、諸君は大いに勉めてくれよ」
たった25歳の青年には言わせたくない、大人びた悲しい別れの言葉でした。
きょうのまとめ
今回は幕末の長州で勤皇に燃えた久坂玄瑞の名言をご紹介いたしました。
簡単にまとめると
①久坂玄瑞は勤皇の志士としての心構えについての名言を多く残している
②玄瑞の残した言葉には、無常観や彼の孤独な苦しみを滲ませたものも残っている
でした。
詩歌を作るのが好きで、それを吟じるのも好きだった久坂玄瑞。
激しく生きた彼の短い生涯に残した言葉は強くて儚げです。
そこから私たちは彼の心の中をどこまで理解することができるでしょうか。
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