島崎藤村のおすすめ作品を5つ紹介|自然主義ならではの価値がある!

 

明治~昭和初期にかけて、多数の作品を残し、文学界の重鎮となっていった

島崎藤村しまざきとうそん

自然主義といわれるように、藤村の作品は自身の経験をありのまま反映したような作風になっており、詳細なぶん、長編になる作品が多いです。

若い人などは特に「長くてなかなか手が出ない」という人が多いのでは?

そこで今回はそんな島崎藤村のおすすめ作品を5つ紹介!

特に興味を惹かれたものを選べば、長編にも挑戦しやすいはずです。

 

島崎藤村のおすすめ作品5選!

破戒

1905年に自費出版された、代表作と名高い破戒はかい

このころから藤村の作風は詩から小説へと転換しており、そういった意味で話題になった作品でもあります。

物語の内容は明治期に蔓延していた部落差別を描いたものです。

主人公の瀬川丑松うしまつは江戸時代、最下級の身分だった穢多えたの家系に生まれ、父親の言いつけによって身分を隠しながら小学校の教師をしていました。

時代は変わり、士農工商や穢多・非人のような身分制度は廃止されたものの、色濃く残る差別問題

身分を知られれば町にはいられなくなる…

しかし穢多の家系に生まれ、差別問題に立ち向かおうとする活動家・猪子蓮太郎いのこれんたろうとの出会いなどによって、身分を隠すことが絶対だった丑松の心は揺れ動かされていきます。

身分の差別というと海外の歴史に目がいきがちですが「日本にもそういう時代があったのか…」と考えさせられる作品です。

夜明け前

1929年、藤村が57歳という比較的晩年に書かれた『夜明け前』は、彼の父・正樹の生涯をモデルにした物語です。

正樹は藤村が15歳のころ、獄中死という壮絶な最期を迎えています。

そこからその生涯をモデルにしようと藤村が筆を取るまでの期間は何十年…やはり相当に覚悟のいる作品だったのでしょう。

主人公の青山半蔵は江戸時代末期の世において、大名御用達の宿を経営しながら、国学者を志す青年。

明治維新によって変わろうとする時代に希望を抱く半蔵でしたが、訪れた新時代は理想とはほど遠く…それでも理想を抱き続けた彼の末路は…。

自身の父親の姿をありのまま投影した主人公の生き様もそうですが、幕末の時代、日本がどのような状態にあったか…

それを歴史の授業などとは別の角度から切り取っているという点で興味深い作品です。

千曲川のスケッチ

1912年に発表された千曲川ちくまがわのスケッチ』は、藤村の作品としては異例のもので、長野県佐久群小諸こもろ町にて、彼が英語教師をしていたころの経験談を集めた短編集です。

立ち位置としては詩でもなく、小説でもない、エッセイのようなイメージでしょうか。

学生時代の寄宿先の息子であった友人に向けた手紙のていで語られており、親戚のおじさんに昔の思い出話をしてもらっているような、そんな感覚を覚える作品です。

“スケッチ”とはよく言ったもので、真に詳細まで小諸町の生活が描写されており、藤村はこんなにのどかな暮らしをしていたのだな…と、思いを馳せることができます。

ほかの作品と違ってひとつひとつの話が短いぶん、読みやすいので入門としてもおすすめですが、一方で他作品をよく知ったうえで、ファンとして目を通してもおもしろくなる一作です。

若菜集

『若菜集』は1896年に発表され、藤村の処女作となった詩集です。

このころ彼が詩作に傾倒していったのは、母・ぬいの死を受けてのことでした。

そのせいもあってか、収録されている詩も全体的に物悲しく、感傷に浸りながらぼんやりと読み進めるような作品となっています。

詩人時代の藤村は「ロマン主義」などといわれているように、その表現は自然や動物などに人の心を投影したものが多数。

現実的というよりはイメージを語ったものなので、理解するにはそれなりの想像力が要されます。

読み流せばパッと読めてしまうような長さでも、ひとつひとつその景色を思い浮かべるにはじっくり向き合う必要がある…

なかなか楽をさせてくれない作家ですね。

しかしその描写が理解できたときに伝わってくる憂いのような感覚は唯一無二です。

『家』は1910年に発表された作品で、そのタイトルの通り、家系の没落をテーマにしたもの。

『夜明け前』の続編とも呼ばれています。

藤村の追い求めた自然主義の到達点とされている点でも、注目度は高いですね。

作中に登場する小泉家は藤村の生まれ育った島崎家がモデル。

そしてもうひとつ、地元の名家で主人公の姉が嫁いだ橋本家も、藤村の姉が実際に嫁いでいった家がモデルになっています。

つまり『夜明け前』で父が亡くなったあと、一家がどのようになっていくかを描いた物語です。

これがまた、名家とはもはや過去の話なのにプライドを捨てられず、うだつの上がらない道を行く兄弟ばかり…。

そんななか作家として邁進していく主人公・三吉のモデルはやはり藤村。

藤村の逸話でも、兄が公文書偽造で逮捕された問題などは知られていますが、そのほかにもいろいろと苦悩があったのだな…と感じさせられます。

兄弟というだけで何かと面倒を見なければいけない…この時代を考えれば、家族関係も今は気軽になったものです。

 

きょうのまとめ

島崎藤村の作品は自然主義のその性質もあり、単に物語としてだけでなく、史実を個人的な観点から体感できるという点に価値があります。

また明治だの大正だのといわれると、言葉遣いなどが違って読みにくい印象を受けますが、藤村の文章はそのなかでは比較的読みやすいです。

長編だとなかなか腰が重いものですが、ぜひ一度触れてみてください!

最後に今回のまとめをしておきましょう。

① 『破戒』『夜明け前』では部落差別や明治維新など、授業などとは違った観点で歴史を学べる

② 『若菜集』は自然や動物などに人の心が投影されていて、想像力を働かせながらじっくり向き合うような作品

③ 『千曲川のスケッチ』『家』からは当時の藤村の生活を詳細に感じられる

藤村の作品はどこまでもリアルさを追求しているところが魅力…詩作から小説へ方向転換したのも道理だと感じさせられます。

島崎藤村の年表を含む【完全版まとめ】記事はこちらをどうぞ。
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