「閑さや 岩にしみ入る 蝉の聲」
俳諧を大成した松尾芭蕉がその代表作『奥の細道』に残した名俳句のひとつです。
今なら7月中旬。
山中にて、
ものすごくけたたましい蝉たちの鳴き声。
そのむし暑さもあいまって
どこか息もつまるようにせまられます。
しかし、
波を打ったような、
このクリアな静けさは何なのでしょう。
詠ったのは出羽の国、
今の山形県山形市郊外にある立石寺。
岩や崖の複雑に入り組んだ山中に建てられた古刹であり、
”山寺”という異名で親しまれております。
さあ、今回はそんな異世界へトリップです!
タップでお好きな項目へ:目次
立石寺の創建者円仁
立石寺は平安時代の前期、
貞観2年、
西暦860年、
あの清和源氏の祖とされる清和天皇の勅願により、
慈覚大師円仁によって創建されました。
この円仁というお坊さんは
最澄が比叡山に延暦寺を開いたと知ると、
すぐに比叡山へと向かい、最澄の弟子になったそうです。
その後、遣唐使船に乗って唐へと留学。
帰国してからはこの立石寺、
東京目黒不動尊で有名な瀧泉寺、
東京浅草の浅草寺、
宮城松島の瑞巌寺、
など、
関東に209、
東北に311あまり、
もの寺を開く、
あるいは再興いたしました。
この人は初代最澄以来、
3代目の天台座主(日本天台宗のトップ)でもあります。
立石寺を登る
境内はJR仙山線「山寺駅」から少し北の山の手へ、です。
車ですと、高速道路山形自動車道「山形北IC」からとなります。
登山口から入ってすぐに根本中堂(本堂)があります。
奥へと踏み分け、やがて山門をくぐるとちょっと本格的な山登りとなります。
参拝する際は動きやすい軽めのかっこうを心がけてください。
やがて中腹に”せみ塚”というのが見えてまいります。
ここがかの松尾芭蕉があの「閑さや~」の句を発案した場所だと言われております。
7月中旬ごろに来るとますますその時の臨場感が出てくるかもしれません。
さらにもうちょっと登ると”入定窟”というのがあります。
ここはかの円仁が”入定”つまり、「即身仏」になった場所だという言い伝えがあります。
「即身仏」とはいわば”ミイラ”です。
すなわち、
厳しい修行の末に、
生きたままここの土の中に埋められ、
ミイラとなって何十億年後かに弥勒菩薩様といっしょに、また姿を現すのです。
円仁は最後比叡山で亡くなった、とされておりますが、
ここ山寺では、
昭和23年に
実際、学術調査を行い、
中から金箔押しの木棺(木のひつぎ)と、人骨5体分、そして、円仁をかたどったとおぼしき頭部だけの木彫像が発見されたようです。
“奥の院”までは入山からゆっくり回って2時間半から3時間ほど見た方がいいかもしれません。
<立石寺>
「閑さや~」の蝉の声論争
この「閑さや~」の句についてあるひとつの論争があります。
それは、
鳴いている蝉の声って何蝉の声なの?
ということです。
だって、蝉の声って蝉の種類によって全然ちがいますからね。
それによって風情が全然ちがってくるだろう、
ということです。
地元山形出身の歌人斎藤茂吉は
アブラゼミだ、
と主張したようです。
ひとむかし前まではたいがいどこでも一番よく見かける蝉でした。
しかし、最近のヒートアイランド現象などの影響により
ミンミンゼミやクマゼミにその地位をめっきりと明け渡してしまいました。
ちなみに鳴き声は、
「ジーーーーーー」とか「ジジジジジジジジ」
と、サイレンみたいな音でけたたましく鳴きます。
一方、東北帝国大学教授であり、あの夏目漱石の弟子であり、芭蕉研究家の小宮豊隆は、
ニイニイゼミだ、
と言い張りました。
ちなみにニイニイゼミの鳴き声は、
「チーーーーーー」とか「ジーーーーーー」
と細いストローでチューーーッと吸いあげるようなちょっと甲高い声で鳴きます。
結果、茂吉は実地調査までこころみてその真相究明にあたりましたが、
「あれはニイニイゼミだ」
と負けを認めております。
まあ、もちろん芭蕉のひらめいた、その日その時にいたわけではないので、真相など確かめようがございませんが。
また、この時期の立石寺ですと、
ヒグラシや、エゾハルゼミにも可能性があるようです。
ヒグラシだとあの夕方の「カナカナカナ……」という涼しい声。
ますますおもむきが異なってきますね。
きょうのまとめ
夏の山寺。
そう聞くだけで風情をかり立てられます。
さすが、「日本の美の名匠」芭蕉先生です。
① 立石寺の創建は平安前期、円仁による
② 立石寺には円仁の入定伝説がある
③ 「閑さや~」に出てくる蝉の声は何蝉のものかで、夏目漱石の弟子と歌人斎藤茂吉が論争を行った
ああ、季節ももうすぐだし、
蝉の声にでも耳をかたむけてみよっかな……。
関連記事 >>>> 「松尾芭蕉とはどんな人物?簡単に説明【完全版まとめ】」
その他の人物はこちら
江戸時代に活躍した歴史上の人物
関連記事 >>>> 「【江戸時代】に活躍したその他の歴史上の人物はこちらをどうぞ。」
時代別 歴史上の人物
関連記事 >>>> 「【時代別】歴史上の人物はこちらをどうぞ。」
コメントを残す