1940年、アメリカで一本の映画が公開されました。
タイトルは『独裁者』
それは、後に展開されるヒトラーの脅威をまだ知らない、
全ての人々に向けた警告でした。
制作者は、喜劇王チャールズ・チャップリン。
今回は、映画『独裁者』を題材に、
喜劇と悲劇、対極の手法によって人々の心を捉えた
20世紀を代表する2人のカリスマ、
チャップリンとヒトラーについてご紹介します。
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近くて遠い2人のカリスマ
独裁者の狂気、喜劇王の危機感
1939年、ドイツがポーランドへ侵攻したのをきっかけに第二次世界大戦が開戦します。
当時アメリカで活躍していたチャップリンは、ヒトラーの人種差別的な傾向と
ヨーロッパに台頭していたファシズムの危険性に一早く気づき、
開戦の1年前から構想を練り始め、開戦後まもなく『独裁者』の撮影に取り掛かりました。
物語の舞台は、独裁者によるユダヤ人への差別が徐々にエスカレートしていく
ドイツをモデルにした国です。
ここでの独裁者はヒンケルという名前ですが、もちろんヒトラーのことです。
チャップリンは、世界征服の野望を抱く独裁者とユダヤ人の床屋の二役を演じ、
コメディー要素を散りばめながらもヒトラーに対する批判や抵抗をはっきり示しています。
特にラストの約6分間の床屋の演説は、嘘に満ちた独裁政権の危険性と、
人間が本来持っているはずの自由や平和の尊さを訴えています。
重なる偶然
独裁者と床屋、という二役を演じているチャップリンですが、
全く別のキャラクターを演じているのに、その見た目は服装以外ほとんど変化させていません。
それなのに、独裁者を演じている時のチャップリンはヒトラーにそっくりなのです。
彼の名演技ぶりはもちろんのことですが、
実はチャップリンとヒトラーの容姿はよく似ているのです。
二人とも小柄で頭髪は黒、特に目を引くのが口元のチョビ髭です。
そしてこのチョビ髭がトレードマークだった喜劇王と独裁者は、
たったの4日しか年が離れていないのです。
この皮肉な偶然は、チャップリンがヒトラーを演じることで、
風刺的な意味合いや込められたメッセージをより強めることになりました。
ちなみにチャップリンは、『独裁者』を最後にチョビ髭をやめています。
映画『独裁者』
想いを音に乗せて
これまでのチャップリンは、時代がトーキー映画へと移行していくなか、
徹底的にサイレントにこだわり続けていました。
しかし、この『独裁者』を皮切りに遂に言葉が解禁されます。
さらに作品の構成においても、いかに多くの人々に関心を持ってもらうかを工夫し、
「戦争」という重く真面目なテーマを前面に押し出すのではなく、
風刺やユーモアといった「笑い」の要素をふんだんに含ませます。
こうして多くの人々の関心を集めたうえで、
ヒトラーの愚行に対する強い怒りと平和への思いを、
対岸の火事としてのんきに構えていた全ての人に届けるべく、
言葉によって警鐘を鳴らすことにしたのです。
特にラストの演説は、構想に1年と8ヶ月を費やし、書き直した枚数は1000枚を超え、
撮影は演説のシーンだけで4日間かけて行われました。
喜劇王と独裁者の戦い
ヒトラーに対しての批判と分かる本作が制作されているという報せを受けて、
元々チャップリンに対し攻撃的だったナチス側からは、さらに攻撃が強まります。
やがてはナチスの同盟国の日本やソ連でも、上映禁止が発表されました。
国を挙げての妨害工作は、海外市場が肝心だった映画界にとっても打撃になりかねません。
次第にチャップリンは、アメリカや祖国のイギリスからも圧力をかけられるようになります。
彼の元には脅迫の手紙が何通も届くようになりました。
それでもチャップリンは戦うことを諦めず、1940年に本作を完成させます。
そして迎えた一般上映。観客たちの反応は、政治家や批評家たちの酷評とは反対に、
大絶賛されることになりました。
さらに世界中で大ヒットとなり、これによってヒトラーはメディアにおける
自身のイメージの力を失うことになります。
演説によって大衆を惹きつけていたカリスマは、
あっという間に「独裁者」というイメージになり変わったのです。
チャップリンの勇気
大成功を収めた映画『独裁者』
しかしチャップリンの警鐘は、ナチスの勢いを止めることはできませんでした。
1933年から始まったユダヤ人の迫害は、映画公開の1年後の1941年、
虐殺という恐ろしい姿にかたちを変えます。
さらに、アメリカも第二次世界大戦に参戦。
20世紀のエンターテインメント業界で最も影響力のあった人物でも、
その波を止めることはできなかったのです。
それでも、ヒトラーのファシズムや人種差別の先にある未来に気づき、
一人立ち向かったチャップリンの勇気と勇姿は、
歴史のなかに確かに刻まれていくのです。
きょうのまとめ
今回は、喜劇王チャップリンとヒトラーの関係性について、
映画『独裁者』に関するエピソードを交えてご紹介しました。
簡単にまとめると
① チャップリンはヒトラーが世界に及ぼす危険性に一早く気づき、ヒトラーを批判する映画『独裁者』の構想を、第二次大戦前から練っていた
② 二人は容姿が似ていて、チャップリンがヒトラーを演じることで風刺的意味合いや、メッセージを強調することになり、大衆の関心を強く惹きつけることに成功した
③ 後半6分の演説の場面では、ヒトラーの危険性への警鐘と平和への祈りが込められており、ナチスや国規模での妨害をよそに、世界中で大ヒットとなった。その結果、ヒトラーのイメージが悪の独裁者となった
笑いのなかに強いメッセージが込められた映画、『独裁者』
気になった方は是非ご覧になってみて下さい。
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